妊娠中にストレスを受けると子供が同性愛者になる

このページでは「妊娠中にストレスをうけると子供が同性愛者になる」という説につてまとめる。

掲載例

妊娠中に強いストレスを感じると子供がオカマになるのですか? 妊娠中にストレスを感じすぎると、その子が男の子だった場合、ゲイ(いわゆるオカマ)になると言うのは本当ですか?
以前、本で、ゲイになる男性は妊娠中母親の体内で母親がストレスを受けた結果そうなったと読んだ事があるんですけど、
そのような事は本当にあるんでしょうか?
ただし別に私は子供がゲイでも愛する気持に変わりはないと思いますが。

検証

『性同一性障害の基礎と臨床』(2001年 山内俊夫 新興医学出版社)では性分化をもたらす要因について次のような記述がある。
現在でも脳の機能的な性分化が遺伝情報や性ホルモンといったバイオロジカルな因子で形成されるのか、生後の学習などの社会心理的な環境要因によって形成されるかという論争は結論を見ていない。
生まれたときから生物学的に同性愛者であるかどうかが決まっているのか、生まれた後で同性愛者になるかどうかは少なくとも2001年の段階では決着がついていないようだ。

さらに「性同一性障害」(同性愛者ではない)の成因として
  1. 形態因説
  2. ホルモン因説
  3. 染色体の異常、遺伝素因
  4. 心理・社会的原因
を上げて次のように結論付ける。
以上のように、ジェンダーはどのようにして形成されるのか、別の言い方をすれば性同一性障害はなぜ起こるかについてはいまだ明確な答えはないというのが現状であるが、現在のところ生物学的成因説、特にホルモン因説がもっとも説得力があるようである。

そしてホルモン因説については次のようにある。
結論として、確かに性ホルモンは性の分化に影響を与えること、その時期は二つあり、最初は胎生期の8週間から24週間の時期であり、次が1カ月から6カ月にかけてのじきである

以上から、「脳の性分化」に関してホルモン因説が有力な説であるというのは間違いないようである。

一方で、「妊娠中のストレス」と「同性愛者」との関係性をこれで結論付けるのは乱暴な印象を受ける。

私が得た情報の中で同性愛者の原因と「妊娠中のストレス」と結び付けている文書は『話を聞かない男、地図が読めない女』(2002年、アラン・ピース他、主婦の友社)以外に見当たらないのだが、これ以外に出典があるなら情報を求む。

この本自体、脳科学の専門ではない個人が、ほとんど出典を伏せて独自研究に基づいて話すだけの本なので私は信頼性は低いと考えているが、確かにこの本には次のような記述がある。

妊娠初期にテストステロンの分泌が少なく、しかも胎児が男だった場合、女の子っぽい男の子、あるいはゲイの男の子が生まれる確率はぐんと高くなる。
(中略)
では、テストステロンを抑制するものはなんだろう?それは、ストレス、病気、そして一部の薬物だ。

筆者はこの説の根拠について、「1970年代のドイツ」の研究やマイノット大学の社会学部リー・エリス教授の研究を上げているようだ。

名前が出ているリー・エリス教授の論文はおそらくこれだと思われる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11564471
これの結論は次のようになっており
Findings indicate that prenatal stress has a modest but significant effect on the sexual orientation of male offspring, particularly when the stress occurred during the first trimester of pregnancy. Regarding prenatal exposure to alcohol, no evidence was found to suggest that it impacted offspring sexual orientation of either males or females. Prenatal nicotine exposure, however, appears to significantly increase the probability of lesbianism among female offspring, especially if the exposure occurred in the first trimester along with prenatal stress in the second trimester.
妊娠時期のストレスが性的指向に影響を与えたのは「控えめだが(統計的に)有意」としている。つまり、この本の作者が主張するような、きつい断定ではなく、「サンプルをたくさん(7500と書いてあった)とれば、無視はできない程度に結果が出ましたよ」という程度である。そして、この結果は「妊娠時のストレスと子供の性的指向にわずかな相関がみられた」ということを意味するのであって、この結果が直ちに「妊娠時のストレスがテストステロンを抑制し、それが同性愛の原因になった」ということを意味しているわけではない。(蛇足ではあるが、この論文ではアルコールやたばこなどといった"一部の薬物"が同性愛になる確率に影響を与えることを否定している)


この研究だけをみて「妊娠中にストレスを受けると子供が同性愛者になる」と断定するのは、「風が吹けば桶屋がもうかる」と断定するような話だろう。
当時最新の科学で得られたわずかな結論を作者が勝手な推測できつい断定形に変えたような印象は否めない。

上述のように少なくともこの本が書かれた2000年の段階ではいまだに「なぜ同性愛になるのか」というのは科学的な結論が出ていない部分であり、「妊娠時のストレス」だけでは説明できないことがたくさんある。
「妊娠中にストレスを受けると子供が同性愛者になる」というのはあくまでも「そういうこともあるかもしれないね」くらいの仮説だろう。

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最終更新:2013年01月27日 23:09