篠ケ瀬祐司

東京新聞「こちら特報部」で精力的に原発問題を追及している。


東京新聞:安倍政権下、原子力ムラが復活:特報(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013121102000149.html

◇分科会など 脱原発派締め出し

 「あまりに唐突。国民が納得できるのか」。立命館大の大島堅一教授(環境経済学)は、
経産省が六日に示した素案に驚きを隠さなかった。
 福島原発事故の発生を受け、民主党政権は無作為に選ばれた国民による「討論型世論調査」を行い、
パブリックコメントも募集した。多くの国民が原発ゼロ案に賛成した結果、「二〇三〇年代に原発ゼロ」という目標が掲げられた。
 それが一転、この素案は原発を「重要なベース電源」と位置付けた。
 素案は核燃料サイクルの推進もうたった。大島教授は「既に破綻している政策。
(推進方針は)早晩行き詰るのに」ともどかしそうに語る。
 「3・11」前に戻ったような素案が出された背景には、原子力ムラの復活がある。
 民主党政権時、エネルギー基本計画は総合資源エネルギー調査会内の基本問題委員会で話し合われた。
委員長を含め委員二十五人のうち、約三分の一は脱原発派と目される有識者だった。大島教授もその一人だった。
 二〇一一年十月の初会合では「道は一つしかない。原子力発電に頼らない、できるだけ早くゼロにする道だ」と、
脱原発を目指す意見が出された。

◇自民復権で議論が一転

 それが自民党の政権復帰で潮目が変わった。
三月に議論の場が調査会の「総合部会」、七月には「分科会」に移され、委員も差し替えられた。
 元経産省幹部で、東京電力や関西電力の役員が非常勤理事に並ぶ財団法人「日本エネルギー経済研究所」の
豊田正和理事長が委員を継続する半面、大島教授ら脱原発派の大半が外された。
代わって委員になったのは、多くの原発を抱える福井県の西川一誠知事や、第一次安倍改造内閣で入閣した増田寛也氏らだ。
 財団法人「地球環境産業技術研究機構」の秋元圭吾氏や京都大原子炉実験所の山名元教授も新メンバーに加わった。
 二人は二〇一一年十月の政府の「エネルギー・環境会議・コスト等検証委員会」の初会合で、
事故収束や廃炉費用などを原子力コストに含めるべきだとする大島教授の主張を「感情的だ」などと批判している。
 調査会の委員は「調査令」により、経産省が任命する。
選任について茂木敏充経産相は記者会見で「個々の問題について、白組や紅組と議論が分かれることを期待していない」と説明した。
 大島教授は「私が外れてもいい。でも、政策決定にはさまざまな事実や知恵を集めなければならない。
意見が違うことは歓迎されるべきではないか」と、議論の進め方に疑問を投げ掛ける。
 菅義偉官房長官は記者会見で、新エネルギー基本法を「一月中にも閣議決定したい」と話した。

◇福島の反省どこへ 除染や「もんじゅ」計画 検討、推進派ずらり

 こうした現象はエネルギー基本計画だけではない。除染や中間貯蔵施設に関連しても同様だ。
 除染の範囲や除染に伴う廃棄物の処分などを議論する環境省の「環境回復検討会」には、
独立行政法人「日本原子力研究開発機構(JAEA)」東濃地科学センターの古田定昭副所長、
JAEAの核燃料サイクル技術開発部門を経て、
現在は日本環境安全事業株式会社の中間貯蔵事業準備室に属する森久起氏らが名を連ねる。
同社は環境省が全額出資、役員には官僚OBが並んでいる。
 委員の一人で「ジャーナリスト・環境カウンセラー」と肩書きのある崎田裕子氏は
NPO法人「持続可能な社会をつくる元気ネット」理事長で、「原子力発電環境整備機構(NUMO)」の評議員を務める。
NUMOは核燃料サイクルで生じる放射性廃棄物の最終処分事業を手掛け、元気ネットはNUMOの広報を手伝っている。
 さらに別の委員である早稲田大の大塚直教授(環境法)は東京電力が職員を派遣する民間組織
日本エネルギー法研究所」の研究部長として、月二十万円の報酬を受けていたことが判明する。
 福島原発事故時に内閣官房参与で、原子力工学が専門である多摩大大学院の田坂広志教授は
「問題は中間貯蔵施設だが、住民は最終処分場になるのではと懸念している。基地の固定化を恐れる沖縄県民と同じだ。
政府が信頼を得るには、原発関連の会合に慎重派も入ってもらう必要がある」と述べるが、自公政権下では望むべくもない。
 先月十一日に始まった環境省の「福島原発事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」も同様。
骨抜きにされた「子ども・被災者支援法」に携わる会合だ。
 批判の多い国際放射線防護委員会(ICRP)の委員で福島県立医科大の丹羽太貫特命教授、
JAEAの本間俊充安全研究センター長、独立行政法人「放射線医学総合研究所」の明石真言理事らの名が並ぶ。
 「被曝による一〇〇ミリシーベルト以下の発癌リスクは、喫煙や飲酒など他の発癌リスクに隠れてしまうくらい小さい」
と発言した長崎大の長瀧重信名誉教授、食品に含まれる放射性セシウムの新規制値案の意見公募で、
厳格な規制に反対する意見を投稿するよう日本原子力学会の関係者に求めた東北大の中村尚司名誉教授もメンバーだ。
 九月に高速増殖原型炉「もんじゅ」の研究計画案をまとめた文部科学省の作業部会も「ムラ」の色が濃い。
原発メーカーから寄付を受けたとされる大阪大山口彰教授、日本エネルギー経済研究所の村上朋子氏、
電力会社出資の財団法人「電力中央研究所」の稲田文夫氏らが委員を務める。
 原子力規制委員会でも、今夏以降の専門家会合の委員構成は一方的だ。
そのひとつの「汚染水対策検討ワーキンググループ」では、規制委の仕事を下請けしている独立行政法人「原子力安全基盤機構」と
JAEAの研究者たちが目立つ。
さらに「避難者の帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」には、前述の丹羽特命教授や明石理事が加わっている。
 いつの間にか、戻ってきた原子力ムラの住人たち。
福島原発事故の教訓はどこにいったのか。昨年七月に国会事故調査委員会がまとめた報告書にはこう記されていた。

 「電力事業者は規制当局と規制の落としどころを探り合い、専門性に劣る規制当局は電力事業者の虜になった。
その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた。事故の根源的原因はこの点に求められる」

(編者注、長瀧重信は原文中では長滝重信となっています)

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最終更新:2013年12月12日 16:19