本書は当初…原子力防災の入門書を2人(松野元と永嶋國雄)で作ろうということ
で制作が開始された。…ところが最終段階になって、チェルノブイリ発電所事故の
取り扱いについて意見調整がつかなくなってしまった。永嶋氏の意見では、チェルノ
ブイリ発電所事故を原子力災害として取り上げるのはかまわないが、すべての章で
取り上げてはいけないということであった。たとえば、想定事故の考え方についての
説明のところで、チェルノブイリ発電所事故と比較することは、日本ではチェルノ
ブイリ発電所事故は起きないことになっており、日本の原子力防災はこれを対象と
していないから、これを直接比較することは意味がなく、あえて記述すると専門レ
ベルの内容になってしまい、一般の読者(国民)を混乱させ、原子力反対論者に知
恵を授けるだけのものとなってしまうので、入門書としては不適であるとした。…
これに対して私は、日本の新しい原子力防災のあり方を住民(国民)保護という
民主的な点からその有効性を検証しようとすれば、チェルノブイリ発電所事故発生は
事実として直視する必要があり、たとえ許可条件的に事故が起きない設計となって
いても、防災というレベルにおいては可能性が存在する限りこれを無視できないので、
日本の原子力防災体制が防護するべき住民(国民)をすべてカバーできているかを、
チェルノブイリ発電所事故を例としてその有効性を検証することは、入門書であって
も住民(国民)にとって必要なことであり、むしろ原子力を受け入れてくれなければ
ならない人々に知恵を授けて理解を求めることが今日的な課題であると思うので、
入門書とはいえチェルノブイリ発電所事故を無視することはできないとした。この
意見の違いにより、2人による共著の夢は絶たれた。
最終更新:2012年12月11日 13:12