姦崎夢姦

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姦崎夢姦(かんざき ふぁんしー)


■性別

■賞金額
一万D$

■所持武器
ふわふわして長くてもちもちしたモノ

■コスト
???

■ステータス
攻撃:1 防御:1 体力:7 精神:3 FS:18


■FS名
敏感さ

夢想妙手(ファンシーテイル)

範囲:MAP全


発動率???% 成功率???%

キャラクター説明

触手一族の姦崎家の縁者にして世界を旅する旅行者(ツーリスト)。
運命の赤い糸に結ばれた相手との出会いを夢見る純真で天真爛漫な性格の女の子である。
チャームポイントはスカートから尻尾のようにひょっこりと顔を覗かせる触手。
本人の気分にあわせてぴこぴこと動くから何を考えているかがすぐにわかるぞ!

絶対領域から伸びる触手は触手なだけに女の子2~3人を軽く持ち上げる力があり、
普段は温順な彼女だが、友達のピンチなど有事の際はその膂力で敵をやっつける。
が、しかしそこはやっぱり触手。非常に敏感な場所であるため、そんな時は
身を震わせて涙を浮かべ「ぅんっ!……ふぅっ!////」などと喘ぎつつ頑張る事になる。

こたびの戦闘には、近隣の港で財宝の噂に惹かれ、そこで知り合った女海賊に頼みこんで
大海賊の宝物を一目見ようと海賊船に乗船していたために巻きこまれる事になった。
このように元気いっぱいの彼女であるが、他方、旅の最終目的である恋の事になると
途端に非常に奥手で恥ずかしがりやになっちゃう、恋愛に滅法弱い女の子でもあるのだ。

もしも今回お目当ての宝を見つけたら、次こそは運命の相手だね!負けるな夢姦ちゃん!



■姦崎夢姦エピソード「かくて夢想の汽笛鳴る」



「えーっ! そ、そこをなんとかっ! お、お願いしますっ!」

 真冬の湿った潮風に少女の元気な声が乗る。
 港町のがやがやとした雑踏の奥に佇む酒場の一席で、
 ポーカーに興じる旅行者、姦崎夢姦が対面する相手に懇願のまなざしを送った。

「そんなに興奮しなさんな。ほら、お嬢ちゃんは降りるのか?」

「ううっ……駄目ですか?」

「小動物みたいな上目遣いをされてもな――――、ほら、フルハウスだ」

 パサリと乾いた音が鳴り、木目の浮いた丸テーブルにカードが並ぶ。
 夢姦は弱弱しく手札(ブタ)を開き、諦めきれぬといった顔つきで
 目の前に座る妙齢の女性へうるうるとした瞳を向け続けた。その背後では
 スカートから尻尾のように伸びた触手がしなしなと力なく左右に揺れている。

「お嬢ちゃんみたいにポケっとした子にゃ危ない場所なんだぜ?」

「き、危険は承知の上ですっ! ですからわたしも――――」

「それに何度も言うが私は『海賊』だ。堅気の人間をホイホイ船にゃあ乗せられん」

 夢姦に肩をすくめて見せるのは、女海賊のリズ=D=コジョンドである。
 小動物めいた夢姦に比べてふたまわりは高い背丈に大人の色気を纏わせる女性で、
 すらりと伸びた手足を惜しげもなく日の下に晒している。その胸は豊満であった。

「せっかく『セイレーンへの貢物』が近くにあるそうですのに……」

「むしろそれが近くにあるからだよお嬢ちゃん。私らみたいのがうようよ集まってる」

「や、やっぱりみなさん気になさっているんですよね!」

「そりゃあそうさ。お嬢ちゃんだけじゃない。現に私だってそれを狙っている一人だろ」

 カードを弄びながら、あれやこれやと財宝の伝説を口の端に乗せる二人。
 いや、二人だけではない。
 耳をすませば酒場のあちこちに座る荒くれ者たちもまた同じ話をしている事がわかる。

 この港町は、今、空前の財宝伝説ブームで沸き立っている。
 大海賊『キャプテン=シルバーフック』と『セイレーン』のラブロマンスと、
 そこに付随する財宝の伝説――――シルバーフックがセイレーンに捧げた貢物の口伝。
 それらに惹かれた有象無象が、砂糖に群がるアリのごとくに集まっているのだ。
 例に漏れず、夢姦とリズもその中の一人であった。

 難破船の生存者から『セイレーンへの貢物』を目撃したとの情報がもたらされたのが
 つい先日の事。その情報は虚妄と笑うにはあまりに魅力的なものであった。
 以来、絶海の孤島であり、セイレーンが潜むと言われる島に最も近いこの港町は
 一攫千金を狙う冒険者や海賊たちのメッカとなったのである。

「まあとにかく、だ」

 町全体がお祭り騒ぎとなっていれば、浮かれる若者があらわれるのもまた必定。
 年長者がポーっと盛り上がっている年端もいかない少女を窘めるこのような光景も
 今では町のいたるところで見られる名物であった。

「お嬢ちゃんには私たちが持ち帰った宝を見せてやるからそれで我慢しな」

「うぅ……」

 今日もまた、そんな港町の名物掛け合いが一つ、ここに終息を迎えていた。

 ポーカーも終わり、リズのぴしゃりとした言葉で乗船交渉もこれにて打ち切り。
 二人は互いに手元のグラスを空けて(夢姦はホットミルクだが)ため息をつき――――

「それでは、ありがとうございました。出航前にまた挨拶に来ますね」

 夢姦は諦めきれぬといった顔つきで触手の先をうなだれさせながらも、
 港をまわってくると言い席を立った。

「ああ、じゃあな。だが私を追っかけるよりいい男でも探したほうが得じゃないか?」

「――――っ!!! そそそんな! わた、わたしにはまままだ! し失礼しますっ!」

 リズの別れ際のからかいに顔を赤らめ、手と触手をぶんぶんと横に振りながら、
 夢姦は大慌てで逃げるように酒場から走り出ていった。

 残されたリズはしばらく走り去る少女の背中と揺れる触手を見送っていたが、
 やがて「まあいいか」と視線を落とし机の上に広がるカードをまとめ始めた。

 大海賊シルバーフックの遺した『セイレーンへの貢物』を求めて仲間たちと共に
 やってきたリズはこの港町で最後の補給と休息をとっている最中であった。

 一足早く準備を終えた彼女は出航までの時間をこうして酒場で潰していたのだが、
 そこで目的を同じくする夢姦に出会い、話し相手をする事になったのだ。
 それがいつの間にやら海賊船に乗せてほしいなどという話へと転がり、
 その結果が冒頭から先ほどまでの押し問答である。

「これで良かった……よな」

 カードをひとまとめにしたリズは思わずひとりごちた。
 テーブルに肘をついた際にたわわな胸がぶるりと揺れる。
 正直なところ、リズは夢姦の事が気に入っていた。

 少しおどおどしたところもあるが元気に溢れ、礼儀正しい姿は見ていて清清しい。
 財宝伝説の事を話す様子など夢見る乙女な姿は財宝を追う自分たちにも重なる。
 それに興味本位でなでてみた触手の手ざわりが非常に気持ちよかったのも高得点だ。
 その際に「ぅんっ」と鳴いた彼女の表情がとても嗜虐心をそそるものだったのも良し。

 だが――――

「イヨォーッ! 姉ちゃん! ゲームの相手がいないなら俺がしてやるぜ?」

 粗野な男の声を背中で聞き、物思いにふけっていたリズはすぐさま思考を切り替えた。
 その顔に、にやりと不敵な笑みが浮かぶ。
 カモがまた一匹やってきたらしい、と、その表情が物語っていた。

 海では略奪、港ではギャンブル。それが海賊という生業。
 堅気とは縁遠い世界である。
 リズは手札をシャッフルさせると、新たに対面に座った男を見据えカードを手繰った。

 だが――――仕方のないことだ。
 何故ならばリズ=D=コジョンドは『海賊』なのだから。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



(うう……恥ずかしくて思わず逃げ出してしまいましたけれど、どうしましょう)

 酒場から駆け出した夢姦は、思い出してまた火照る頬を押さえつつ途方に暮れていた。
 漁師たちの船が並んで波に揺られている港町の波止場。
 船はこの通りたくさんあれど、目的の島へ行ってくれるというものはなかった。
 冒険者の船などは声をかけても子供は邪魔だとの一言で追い払われてしまう。
 セイレーンが住む島は危険海域の真っ只中である。さもありなんと言うべきか。

「ふぅ……んっ……」

 夢姦は己の触手をふわりと抱いて、先端にあごを乗せて嘆息した。
 ふにふにと感触を堪能しつつどうしたものかと広がる海原を眺める。

(素敵な恋物語の舞台ですし、見てみたいものです……運命の出会いももしかしたら)

 夢姦はぼんやりと旅に出るきっかけとなった日の事を思い出していた。

(そうです……わたしは……あの日)

 時はしばし昔に遡り、場所は日本――――
 埴井(はにい)養蜂場と銘打たれた看板を掲げる施設の中で、
 せっせこと作業をする触手従業員たちの喧騒に混じって談笑する声が聞こえていた。

「運命の出会いかぁ……夢姦ちゃんもお年頃ってやつね」

「あぅぅ……わ、わたしもお父さんとお母さんみたいに……す、素敵な、その……」

 触手の先をハート型にして、リンゴのように真っ赤な顔で
 夢姦は『恋の先輩』の話を聞いていた。

「そうね、あたしからアドバイスするなら……んー……」

 夢姦の相談を受けて指を頬に当て思案を始めたのは
 この養蜂場の主の親戚であり、ここを遊び場として頻繁に訪れる『先輩』である。
 一目で鍛え込んでいる事をわからせるしなやかな身体つきに、格闘を嗜む者特有の
 刃物の如く鋭いオーラを発散させる隙のない、それでいて時折見せる
 このような子供っぽい仕草が何ともアンバランスながらも魅力的に映る女性だ。

「そうだ! 世界旅行よ!」

「世界旅行、ですか?」

「あたしも世界旅行して運命の出会いをしたんだから!」

 夢姦もまたこの養蜂場には頻繁に遊びに来ており、
 『先輩』とはこうして顔をあわせ、他愛もないお喋りに興じる間柄であった。

 この日、お茶を飲みながら夢姦と『先輩』が話していたのは
 年頃の少女ならば誰もが気にする恋の話題。

 歳の離れた妹分がおり、その面倒をよく見ていた『先輩』にとって
 こうして夢姦の相手をするのもまた慣れたものである。

 恋の話にきゃいきゃいと花を咲かせる二人の姿は、
 従業員たちも思わず触手を伸ばしそうになる華やいだものであった。

 穏やかな午後の日差しに満ちた昼下がり。

「はーい二人ともー! 美味しいハニートースト出来ましたよー!」

 そこへ湯気の立ち昇るお盆を持ってあらわれたのは埴井養蜂場の主にして
 艶やかな色気と柔和で幼さを感じさせる笑顔を奇跡的なバランスで備えた、
 魔性の養蜂家の異名を持つ埴井ホーネットである。

「やったー! あたしホーちゃんのハニートースト大好きー!」

「ふふふ、きららちゃんはそういうところ昔から変わってないですねえ」

「わあ、美味しそう! いただきまーす」

 ホーネットがイスに腰かけ、各々が笑顔で焼きたてのパンに手を伸ばす。

 新たに大輪の華を添えた養蜂場のティータイムは
 羨ましげに指を咥える(?)従業員たちに見守られつつ、
 いつまでも蜂蜜の甘い香りに包まれてあった。

 ――――これが夢姦の旅立ちのきっかけ、
 よく遊びに行く埴井養蜂場で起こった『恋の先輩』埴井きららと、埴井ホーネットとの
 在りし日のひと時である。

 なお、触手が従業員を務める埴井養蜂場とその主の埴井ホーネットや、
 埴井きららの運命の出会いについて詳しく知りたい方は『ダンゲロス・アブノーマル』
 『学園魔法陣Aのダンゲロス 第7.5話、第8話』『ダンゲロスホーリーランド3』
 辺りを参照するのがよろしかろう。

 また、きららの妹分に関してはいずれ明らかになるであろう事柄であり、
 それを語るのはまた別の機会に譲るとしよう。

 それと、このティータイムの後に従業員たちはホーネットと存分に「アーン」な事を
 したためご心配には及ばない事をここに申し添えておく。

 それはさておき、過去の夢想から戻った夢姦はといえば。
 初心を思い出した夢姦は触手を強く抱き「ぁっ」萎れそうになる己を叱咤していた。

(諦めちゃだめですわたし! こんな事では挫けません!
 わたしはお母さんにとってのお父さんみたいな、最高の相手を見つけるんです!)

 海の青を反射するその双眸は新たに力強い光を灯していた。

 そう、詰まるところ姦崎夢姦という少女は、

 酒場で知り合ったお姉さんからハートのエースを指先に挟んで見せびらかされつつ、
 「お嬢ちゃんくらいの歳ならそこらの若い男を追っかけるほうが楽しいんじゃないか?
  いい男でもいないのかい? ああ、そんな立派な触手持ちだともしかして女かな?」
 などと色恋の話を振られて「え……えええぇぇぇ」と慌てふためき
 拍子にイスを派手に転がしてしまうような、

 信頼する相手の言葉ならすぐに頷き「わたし、世界旅行します!」と言い出すような、

 お父さんとお母さんが世界一のカップルであると信じて疑わないような、

 触手一族、姦崎家の血筋通りに純情で、素直で、純粋な子であったのだ。
 ついでに、酒場では倒したイスを触手で丁寧にもとの位置へ立て直す
 お行儀の良い子でもあった。

「よーし! わたしがんばりますっ!」

 頑張れば何事も何とかなると信じて。
 少女は拳を強く握り、前を見据え、

「えい、えい、おーっ!」

 船がないなど何するものぞ。
 運命の出会いを果たすその日まで、不退転の心得だ。
 穢れを知らぬ乙女は一人、海に向かって力強く己が腕と触手を突き上げた。



 ――――と、その時!



「おい! 酒場で喧嘩だってよ! 胸のデカい姉ちゃんが絡まれてるって!」

「マジかよ! 見に行こうぜ!」

「ええっ!?」

 決意を新たにする夢姦の耳に聞き捨てならない台詞が飛び込んできたのであった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 夢姦は走った。
 酒場で絡まれているという女性は間違いなくリズの事であろう。

(リズさんは言っていました。「私は1千万D$の賞金首なんだ」って。
 ご本人は気にする風もなかったですけれど、もしかしたら賞金稼ぎの人が!?)

 押し寄せる不安から逃れるように夢姦は走った。
 やがて見えてきたのはリズと語らった酒場。

(どうかリズさん! ご無事でいてください!)

 祈るような気持ちで酒場の前へと到着した夢姦の耳に飛び込んできたのは、

「テメッコラー! イカサマしてんだろオラー!」

「情けない野郎だな! 勝てない奴ほどそうやって吠えるんだよ!」

 粗暴な男の声と、聞き覚えある凛々しい女性の声。

(よかった! リズさんは元気みたいです!)

 安堵をしつつ、けれどまだ危ない事態かもしれないと
 酒場を囲む野次馬たちの間を縫って店内に足を踏み入れた夢姦。
 だがしかし! そこに広がる光景は、

「ヒャッハー! 詫びにその乳揉ませろケヒヒーッ!」

(モ……モヒカン!!?)

 何たる事か! 夢姦も思わず目を見開く!
 そこに居たるは雄雄しく天を衝く金髪の逆毛! トゲ付の肩パッド! 凶悪な面魂!
 紛れもなくモヒカン雑魚! それが今、女海賊へ掴みかからんとしているではないか!

(いけません! これシリアスじゃなかった!)

 激しい勢いでその場に突っ伏す夢姦! だがそれも致し方ないであろう。
 深刻さも水平線までぶっ飛ぶ衝撃である。

「ぐぇっへっへっへ! 逃げんじゃねぇぞぉーッ!」

「チィッ! デカい図体でにじり寄って来るんじゃねーよ!」

 あなや! しかし事態は無情にも進んでいる!
 夢姦も突っ伏している場合ではないと気を取り直した。
 なんとかリズを助けなければ――――緊張で触手もピンと張っている。

(そうです! わたしの触手で!)

 覚悟を決めた夢姦の行動は素早かった。
 床に身を屈めたままの状態で触手に力を込めた夢姦はその先端を、

(触手奥義四十八手之三! 夢想妙手(ファンシーテイル)!)

 勢いも鋭く地面へと突き刺した!
 説明しよう! 夢姦の夢想妙手とは!

 己の触手を地面へと突き刺し! 「ぅんっ!」

 地中を自慢の膂力で掘り進み! 「んあぁっ!」

 その敏感さで敵の位置を捕捉し! 「ふあっ! あっ!」

 敵の足元から触手を強襲させる技なのだ! 「はあああぁっ!!」

「ウオオォォッ!? 俺の足元から突然触手がッ!? なんじゃこりゃあーッ!?」

 床板を突き破り突如現れるもちもちの触手!
 目の前の豊満に気を取られていたモヒカン男は驚きのあまりその場に硬直!
 もちろんその隙を逃す女海賊ではない!

「隙あり! イヤーッ!」

「アババーッ!!!」

 棒立ちとなったモヒカン男の無防備股間にリズの決断的飛び膝蹴りが命中!
 モヒカン男は悶絶! 失神! 泡を吹いて巨体をその場に沈めたのであった。

 「終わった――――な」

 モヒカン男が立ち上がれぬ事を確認し、リズは静かに息を吐いた。
 あらぬいちゃもんをつけてくるような情けない悪は滅びた。

 ――――こうして酒場の大騒ぎは無事に幕を下ろしたのであった。

 なお、この後に意識を取り戻したモヒカン男は酒場の弁償で大部分を失い
 なけなしとなった有り金をはたいて夢姦を1万D$の賞金首にするのだが、
 野郎の逆恨みなど描写したくもないので割愛する。

 ともあれ、こうして無事にモヒカン男を撃退したリズは助けてくれた
 礼を言おうと先ほどまで夢姦が立っていた方へと向きなおり、

「ぅうーん……むにゃ……」

「あん? なんだあ?」

 触手で床板をぶち抜いた刺激により気をやってしまい、
 すっかり夢の世界の住人になっている夢姦の姿を見つけたのであった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「どうやら結構無茶させたらしいな、済まないお嬢ちゃん」

 先ほどまでの喧嘩騒ぎでテーブルやイスがあちこちに散らばった酒場の中央で、
 リズは床に寝転がった夢姦をそっと抱え上げて立っていた。
 夢姦はリズの腕に抱かれ安らかな寝息を立てている。

「ありがとうな――――、って言っても聞こえないか」

 眠る夢姦に礼を述べるリズ。

 その振る舞いは女海賊ながら実に紳士的なものであった。
 それは、本来であればその紳士さを存分に発揮して夢姦が目を覚ますまで見守り、
 改めて礼を述べていたであろうと感じさせるだけのものであった。

「もう一度挨拶に来るとは言ってたが、まさかこんな挨拶になるとはな」

 だが、今回ばかりはそう悠長に構えていられなかった。
 太い笛の音が酒場の空気を震わせている。
 波止場から聞こえてくるそれは、耳慣れた汽笛の音だ。

 汽笛にせかされ、さてどうしようかとリズは思案した。

 時は頃合い。出航の時間である。
 だが意識を失っている夢姦をこのまま放置するわけにもいかないし、
 恩を受けておいて挨拶もなしに港を出るのは自身の矜持に反する。

「むにゃ……むにゅ……」

「可愛いもんだな」

 夢姦の寝顔を見て、リズは呟く。

 不意にリズの脳裏を夢姦が船に乗せてほしいと懇願する姿がよぎった。
 どうせならこのまま連れて行ってしまおうか。そんな思いがリズの胸に湧く。
 本人が希望していた事であるし、リズも夢姦の事は気に入っているのだ。

「んー……お父さん……」

「ははっ、せめてお母さんと呟いてもらいたいもんだ」

 しかし、リズの常識的な思考がそれに反論する。
 年端もいかない少女を寝ている間に海賊船に連れ込むとはどういった了見だ。
 宿屋にでも預けて、書置きの一つでも残すのが一番である、と。

「すー……すー……」

「なんだか楽しそうな顔して、いい夢でも見てるのか?」

 しばしの葛藤の末、

「そうだな。堅気は堅気らしく生きるべき……だよな」

 心の天秤は常識の方に傾いたらしい。

 リズは頷き、騒がせたなと酒屋の店主に一声かけると
 夢姦を腕の中に納めたまま、未だ迷いのある足取りで歩き出した。
 こんな子供を危険だと分かっている海域に連れ込むのは間違いだろう。

 だが――――

 いざ、宿屋に向かおうとしたリズの腰のポケットから床に落ちた物があった。
 それを見て、リズは足を止める。
 視線の先には、今しがたまでポーカーに使っていたカード、ハートのエース。

 54枚一組の――――55枚目だ。
 ぶっちゃけモヒカン男のいちゃもん通り、リズはイカサマをしていたのである。
 そりゃあ海賊だもの。ギャンブルすればイカサマの一つだってしようものだ。

 まあそれは置いておこう。
 とにかく、そのカードを見た途端である。

「そうだった。そうだったな!」

 何を思いついたのか、リズは愉快そうに笑ったのであった。
 その顔に浮かぶのは歴戦の海賊らしい不敵な笑み。
 もはや何も迷いはない、と、その表情は物語っていた。

 海では略奪、港ではギャンブル。それが海賊という生業。
 ギャンブルではイカサマ上等だし、時には“人攫い”だってするのだ。

 ひとしきり笑い終えた後、リズは無意識に触手を首に絡めてくる夢姦を抱き上げたまま
 颯爽とした足取りで汽笛を鳴らす己の海賊船へと歩み始める。

「いい夢見ていな、お嬢ちゃん。起きたら私がもっと凄いものを見せてやるぜ」

 リズの囁きに、夢姦の寝顔がいっそう和らいだように見えた。

 だが――――仕方のないことだ。
 何故ならばリズ=D=コジョンドは――――『海賊』――――なのだから。<姦>

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