2年後、

山形の父に癌が見つかったため、ロンドン大学コートールド美術研究所を1年あまりで中退、外資系企業で東京のタイムインターナショナルの系列出版会社に入社しました。父の治療費と独立費用を捻出するのが目的でした。外資系企業の給料はウィークリーとマンスリーの月2回振り込まれ、実力主義を反映するかのように多い時で月60万円〜80万円ほどの給与を23歳で得ていました。

私は東京千駄ヶ谷の日本医大で正式手続きを行い丸山ワクチンを定期的に投与することに。更にロンドンから神の秘薬と呼ばれていた癌の特効薬も定期的に購入。父の癌の治療に宛てました。1年半程で外資系企業を退社、故郷に錦を飾るつもりでデザイン会社を設立、プロデザイナーとしての道を歩みだしました。しかしデザイン会社は6年ほどで終焉を迎えることになりました。取引関係にあった東京の代理店が倒産し保証金として預けていた300万円が焦げ付いたのです。ひとまず当座の資金を得ようと行政書士に相談、「無記入の手形を5枚切ってくれれば、資金を作る。」と自信たっぷりに言う行政書士の言うがまま空の手形を切りました。100万程度の現金を手に入れましたが、振り出した空手形の危険性を教えてくれた弁護士の助言で会社を法的に清算しました。

何にもなくなりました。故郷の先祖代々の家、田畑まで手放しました。裸一貫、どうせ丸裸。1から出直すことにしました。仙台でフリーランスデザイナーとしてスタート。機を熟すように波に乗りました。仕事が毎日のように入り、徹夜続きの日々を送りました。いつしかデザイン学校の非常勤講師として採用になり、デザインの指導もするようになりました。気がつくと一人の女子学生が私のスタジオに出入りするようになっていました。バイク好きで話が合い、気さくな雰囲気の子でした。私も大型2輪に乗っていたため両親に紹介するため2人で2台の単車に乗り一路山形へ。その日は生まれ故郷で朝まで飲み明かしました。あの頃、母のとても喜んだ笑顔は今も忘れられません。

ひょんな事で彼女には同棲している人がいることが分かりました。失意の中、思いを断ち切る為、デザイン学校を辞任したものの思う様に仕事が捗りません。自分の中で「何故だ。」という無念だけが空回りし思う様に歯車が廻らない状態が続きました。そんなある日のこと。スタジオで考え事をしていた時のことでした。頭のてっぺんから、何か妙な感覚を覚えました。最初は頭に油を注がれたような「ぬらぬら」という感触があり、次に何かに頭を捕まえられているような感触を感じたのです。そしてそれは「じわりじわり」と恐怖感に変っていきました。
最後には恐ろしい何かが取り憑いてきたような強烈な寒気を感じ、思わず部屋を飛び出し道路まで逃げました。まだ頭を鷲掴みにされているような感触は残っていたものの恐怖感が薄れてきたため再び部屋に戻ったのです。実は当時、デザインスタジオと自宅を兼ねて借りていたマンションの部屋の前はJR仙石線の線路が2m先にあり、その線路の奥が墓地になっていました。
私は、墓地の霊か何かがいるのかと不安になりながら部屋に戻ったのですが、今度は頭をマッサージされているような気持ちのいい感触を感じ身体が固まったまま15分程佇みました。
それからというもの眠っている時以外は頻繁に何かが頭を鷲掴みされるような、「じわりじわり」と沸き上がる恐怖感を何度も体感するようになったのです。

仕事をしなければと思い机に向ったものの、いつの間にかあるイラストを描いていたのです。出来上がったイラストは王の椅子に座って聖書を開いている「イエス・キリスト」の絵でした。それからの私は聖書と燭台と十字架を購入し毎日聖書を読む様になっていました。何故か聖書を読むと心が落ち着き、体調が頗る良くなるのでした。旧約聖書と新約聖書を1回読み終えるのに1ヶ月程要しました。私は常に聖書持ち歩き、暗記するまで何度も読み続けようと思ったのです。

デザイン団体の会議があった夜、早道をしていこうと思い車を路地に向って入って行きました。昼間なら何処を走っているか直ぐ判断が出来たのですが、暗い路地のため道に迷ってしまい引き返そうと灯りのついた広い駐車スペースでUターンしようとバックをした時、その灯りのついた建物の方と思われる男性が私の車の窓ガラスをコンコンと軽く叩いたのです。
私はしまった。と思いつつ敷地に入ったため釈明しようとドアを開け車を降りて道に迷いUターンしようと思いつい敷地に入ってしまったことを説明とお詫びしようとしたところ、その方は、「貴方が来られるのを待っていました。どうぞ遠慮なく中にお入りください。貴方も臨んでおられた筈です。」と言うのです。私はどなただろうと思い回りを見ると、スチールの看板に「仙台パプテスト教会」と書かれているのが見えました。私は「教会?」と思ったものの何故か誘われるまま、教会の中へと案内されました。その方は私に向って「私に聞きたいことがあるのではないですか。」とおっしゃったのです。私は素直にこれまで自分の身に起きた現象(頭に何か降りてくるような恐怖感)や聖書を読み始めたこと等を打ち明けました。すると、その方は、私に向ってこう告げました。「貴方は霊のパプテスマを授かった方です。貴方はご自分の教会を建てられる方です。貴方に今後起こる事を全て受け入れなさい。そういう定めにあります。」私は、始めてお会いした方なのに何故かすべてを打ち明ける事が出来たのです。
そして丁寧にお礼を言って教会を後にしました。私は「牧師」になったとこのとき自覚しました。





















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最終更新:2013年01月26日 02:40