「3.11からもうすぐ2年を迎えます。」

仙台も今ではすっかり元通りになり、何事も無かったかのように時が流れていきました。しかし、2年も経つというのに、甚大な被害を受けた気仙沼や塩竈の被災現場は未だに当時のまま、時を止めたかのような佇まいを見せています。全国のグラフィックデザイナーの皆様の暖かいご協力を得て、「東北せんだい再生みらい展」というポスターによる震災復興の機運を高めるためのデザインイベントを開催しました。全国から70名程のプロのグラフィックデザイナーの方々が渾身の作品を送ってくださいました。この時は、社団法人日本グラフィックデザイナー協会の後援のもと、NHKを初めとする宮城のメディアや仙台市などからも後援をしていただきました。

その後、公益社団法人 日本広告制作協会主催の地球環境問題を啓示する「クリボラ展」も開催。デザインを介して、復興への啓蒙を行った。

結局グラフィックデザインとは。
ブランディングや商品開発、そして街を彩るデザインツール、更に施設のロゴマークと施設名称サインの開発という課題に対して、グラフィックデザインとしての関わり方を景観アートやベーシックデザインとして機能性、実用性、展開性デザインという視点で観察しグラフィックデザイナーの有り様を考察してみる。例えば、タイポグラフィの原点は、古代インダス文明の遺跡か、エーゲ海のほとりに残されたローマ帝国の辺境城塞か、あるいはSF映画の近未来の廃墟か、そのいずれにもなり得る魔法の景観と言える。このようなイメージの飛翔を増幅させ、来訪者の脳裏にそれぞれの「ものがたり」を描き出すきっかけとしてグラフィックデザインが機能し得るのではないかと考えた。

手法としては、「古代ローマ帝国」をタイポグラフィによってオーバーラップさせ、ノンフィクションとしての土着性にフィクションとしての普遍性を重ね合わせる。異なった時間と空間が交錯し虚実入り混じったイメージのプラズマから、来訪者それぞれの「ものがたり」が紡ぎ出されることを期待して、このロゴマークとサインはデザインされる。
大理石碑文サインは、ロゴマークのもとである古代ローマ帝国碑文(トラヤヌス帝碑銘書体:Trajan)のイメージを人造大理石に彫刻文字を施して表現。例えば、瀬戸内の風光・精錬所遺跡の無国籍な、た佇まいに古代地中海文明のイメージをオーバーラップさせることで施設景観の印象を時間的・空間的普遍性へと飛翔させる触媒サインである。施設エントランス腐食鉄板サインは、犬島遺構特有の金属成分を含んだ「カラミ煉瓦」と質感的親和性を持つ赤錆鉄柵と一体化したサイン。「精錬所」のロゴタイプは犬島精錬所操業期と同時代の明治初期金属活字書体に基づいており、それを鉄板凸文字として正面入口に装着することにより「近代化産業遺産」犬島精錬所の文化史的価値の根拠を表現している。また、最近リニューアルしたJR東京駅には雄勝硯石が屋根スレートや外壁にも使われてきた。今回雄勝石絵ミステリーアートと題して,東京駅丸の内線入り口に巨大な石絵を設置した。本校グラフィックデザイン科学生がエスキースを書き、雄勝の子供達が絵付けをして仕上げたコラボレーション作品である。将来。東京駅に降り立った元少年たちが唯一の自分たちが生きた記憶の資産として、また永遠の待ち合わせ場所として昇華していくストーリーが推測できる。新しいスポットが誕生した。グラフィックデザインの力である。あらためてグラフィックデザインとは「何をする仕事」なのか考えた時、このプロジェクトを通して思い至ったことがある。「ロゴマーク」、「サイン」、それ自体が「グラフィックデザイン」なのではない。むしろ、平面・立体/物質・非物質、さまざまな「眼に映るもの」を操作して、その向こう側に新しい「ものがたり」を描き出す営為の総称が「グラフィックデザイン」なのである。つまりは、「もの」に依拠しつつ「こと」をデザインする。例えばサインデザインは広大な建築全体から見ればその物理的質量においてごく微細なものに過ぎないが、時として建築全体の価値を何かしら変えてしまうことができるとすれば、それは「もの」の背後にある「ものがたり」を操るグラフィックデザインの力が起こす小さな魔術であると言うことができる。

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最終更新:2013年02月07日 19:28