海軍志願兵体験記     著者/原田俊夫(父、71歳で永眠)

第二次世界大戦末期、海軍志願兵として入隊した父の体験小説

●青年学校からの強制志願

昭和二十年といえば太平洋戦争も末期で、私達は役場の兵事係と、青年学校(当時、 各小学校区ごとに当時の旧谷地町には、南部青年学校、中部青年学校、西部青年学校がありました。)
それは当時、制度化されていたものと思われます。それが昭和十九年頃に中部青年学校に統合し一本化されました。その青年学校からの強制志願だったのです。
私はその時満十七才の少年でした。寒河江町(現寒河江市)の南部小学校に西村山地区から、十六才から十九才までの志願者が身体検査と学科試験(算数と国語)を受けるため集合していた。学校の教室を借りて試験が行われましたが、その時に現役の
学校の教師が教室の通路をゆっくり歩きながら問題を声高に教えていたものです。それは、今田信一先生(故人)と、宇井利一先生(故人)だったと記憶しています。

●記憶をたどる

遠い記憶で、小学校入学の時、新入生の初顔見せのことを思い出したことがあります。
その時は祖母(昭和四十三年、八十九才にて死去)に連れられていった時のことです。新入生の知能テストで、紙の色を言い当てるものでした。
係の教師が赤い紙を指し示し、「これは何色ですか?」と、たずねた。私は何の躊躇もなく、「シロ!」と、答えました。すると係員はすかさず裏面を出して、「ウラは白ですがよ。」と言いました。
その帰り路、祖母に、「なして、赤を「白」とゆたんだ、バガヤロほに」と、ひどく、ごしゃがれた(叱られた)ことを思い出していました。
何であの時、赤色を「白」と答えたのか、後年考察してみましたが、いまだ不可解なままです。

●結果発表をうけて

学科試験の結果発表がありました。算数四十点、国語八十点でした。合格基準は二教科共六十点以上とされていましたが、私の場合、合計で百二十点ということで特別に合格ということになりました。
学校の雨天体操場内では、厳密な身体検査が行われました。特に軍隊は集団生活なので伝染性の疾患など発見されますと、直ぐ失兵(兵役免除)となったものです。
性病検査ということで私達は軍医の前で、フンドシを除去して、裸になり、生殖器を直にさらけ出しました。この時、私の代物は萎縮して蚕の蛹のような形をしていました。それを見た軍医の試験官は即座に、
「細いし、小さいね。」と言ったものです。
私はこの時、何という感情もありませんでした。(後年、私は美しい娘と結婚し、男女二人の子供を成
し、セックスの時は、妻に最高の歓喜を与えることが出来たものです。)
身体検査の結果、私は丙種合格となりました。上には、甲種合格、乙種合格とあり、私などは、体格が大きくなかったので最下位の丙種となったものと思います。

●出征兵士を送る壮行会を迎え

数日後、町役場の小走り、(当時、各家々へ、役場より通達物を配布して回る小使い)が回ってきて、私の所へ採用通知書を配達して行きました。その時、私は身体的な絶望感に襲われたことを覚えています。
谷地町内からは、二十九名の紅顔の少年達は、絶望感に打ちひしがれながら出発の日を待った。
当時、私の地区は高関といって、連合会長を槇新助氏(故人)がやっておりました。部落には村社熊野神社があり、そこでは出征兵士を送る壮行会が行われます。主催者は地区の在郷軍人会がとりなしておりました。
「出征兵士」を送る言葉、槇新助氏、兵士を代表して召集令状で海軍に征くことになった、年齢の高い、原田喜一郎氏(故人)が私達を代表して、あいさつをしました。その後、八幡神社で神事のあと、私達は山交バスにて神町駅に向かいました。沿道の人々は口々に、「バンザイ」と、叫び大きく両手を上げて送る姿が目につきます。このバスには、見送りの家族も少なからず同乗しております。

●寒さの中を待つ臨時列車

私達の乗る列車は、この度の志願兵だけを運ぶ臨時列車だったと思います。その年は近年にない大雪でした。その故で、汽車は定刻の午後八時を過ぎても到着しませんでした。
私達は寒さに耐えるため、四、五人で体をくっつけ合って暖をとっていたが、駅の待合所では大変だべな、と言うことで駅前の道路北側にあった旅館「泉屋」という所で部屋を貸してくれました。その頃、見送りの家族は殆ど最終のバスで帰宅していました。
午後十時過ぎ、ようやく汽車は到着しました。やはり大雪で遅れたということでした。ホームには、見送り人の中で唯一人最後まで残ってくれた方がいました。その人は、荒町の佐々木貞夫君(仮名)後の「えびや食品店主」の父親(宇井利一先生、私の南部小学校時代の恩師)の実兄でした。
やがて列車は駅のホームをすべり出しました。その時、佐々木君の親父さんが、大きな声で、「谷地衆、バンザイ、がんばれや」と、叫んでくれたことを今でも記憶の彼方に残っています。

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最終更新:2013年03月05日 15:03